Nogne Oの「sake」商品ページ
Nogne O社のWebページより

世界中に広まる日本酒。輸出量が伸びている一方で、現地で酒を醸す人たちもいる。

先日結果が発表された“日本一おいしい日本酒”を決めるコンペ「SAKE COMPETITION(サケコンペティション)」に、今年、初めて海外蔵が招聘(へい)された。米国から5蔵、カナダ1蔵、そしてノルウェー1蔵が参加、審査会場には計21点の外国産清酒が並んだ。


サケコンペティション2016、海外蔵出品酒を利き酒するようす
海外蔵の酒を利き酒しているようす

米国での酒造りの歴史はふるく、最近は、個人の小さなメーカーもいくつかある。だが、ヨーロッパでも「SAKE」がつくられていることはあまり知られていないのではないだろうか。

サケコンペティションの審査会にあわせて来日した、ノルウェーのNogne O(ヌウグネ・エウ/「o」はストローク付き)社に話を伺った。

■ヨーロッパ初の酒蔵

ヌウグネ・エウはヨーロッパ初の日本酒蔵であり、ノルウェー最大のクラフトビールメーカー。2003年からビールを、2010年から日本酒を製造している。

きっかけは、パイロットだった創立者が日本を訪れた際、日本酒のとりこになったこと。いまは、創業当時から蔵人として参加していたカナダ出身の人物が、ビール工場の片隅で醸している。

■「パワフルな」味

味は「酸味が強くてパワフル」だと、営業担当のKaori Ishiiさん。「山廃」という手法を用い、全量手作業で仕込む。米は北海道産「吟風」。ノルウェーの雪解け水を使うため、すっきりとキレがいい酒に仕上がるそう。

ジビエなど現地の料理とあわせるためにも、酸味が強く、ドライなほうがウケはよいらしい。

Nogne O(ヌウグネ・エウ)の営業担当、Kaori Ishiiさん
ノルウェー在住、営業担当のKaori Ishiiさん

■厳しいノルウェーの酒事情

まだまだノルウェーでは日本酒の認知度は低い。その一因には、アルコールへの非常に厳しい取り締まりがあげられる。

ノルウェーでは、ビールよりアルコール度数の高い酒は、国営の専売公社でしか販売できない。酒税も高いし、販売時間も限られている。

さらに、酒類の宣伝はすべて違法。例えば、イベントで楽しく酒を飲む写真をSNS上にアップすることも宣伝とみなされ、違法となる。昨年、やっと「単なる商品情報をのせる」ことが許されるようになった。そのくらい厳しいのだ。

加えて、日本酒を当てはめるカテゴリもなかった。当初は「フルーツワイン(果実酒)」をあてがわれ、交渉の末、この2月、「sake」という部門がつくられたそうだ。でも、ノルウェー人のあいだでは“酒=アクアヴィット(伝統的な強い蒸留酒)”という認識が強いらしく、なかなか日本酒を受け入れてもらえない。

そういったなかで、同社は、レストランでテイスティングイベントを開くなど地道な活動を繰り返しているという。周辺を航行するクルーズ船へも働きかけている。そしてこのほど、各国と北欧を結ぶスカンジナビア航空の東京就航便で、純米酒の提供が始まった。「伸び代はいっぱいあると思います。ちょっと伸びると10%増ですから」とIshiiさんは笑う。

現在、年間生産量は7,000リットルほど。ヨーロッパ各国へも輸出している。「ヨーロッパに一番フレッシュなお酒を提供できるので、シーズンの生原酒とかひやおろしを出しています」とIshiiさん。日本や米国よりもはるかに短い距離は、彼らの武器となっているようだ。

■広がる酒づくり

酒づくりはヨーロッパ中に広まりつつある。すでにスペインに2蔵、フランスやイギリスでも蔵をつくる動きがあるという。ライバルが登場するなか、先駆者・ヌウグネ社の誇りは、熟成させた「古酒」を世に出せること。今回のサケコンペティションにも出展したそうだ。

サケコンペティション審査会で話す、Ken Valvur氏と新澤氏
サケコンペティション審査会では、海外の蔵元と日本の蔵元の意見交流もみられた

Nogne Oは、英語で「naked island」、すなわち「裸の島」という意味。ここから、同社の酒のラベルには、漢字で「裸島」と書かれている。日本では、オンライン販売のほか、一部小売店でも購入できる。あいにく取材時には飲むことができなかったが、気になる方は試していただきたい。肉とあわせるのがおすすめとのこと。