「酒縁」という言葉があります。「酒が縁を結ぶ」――酒をきっかけに素晴らしい縁が生まれたとき、感謝して使われることが多いでしょうか。
熊本市現代美術館で10月より開催中の「ジブリの立体建造物展」。その会場内のショップで、「熊本城」という日本酒が販売されています。堂々と構えるラベルの文字を執筆したのは、なんとジブリの鈴木敏夫プロデューサー。
そこに至るまでには、偶然が重なりあった奇跡のような「酒縁」がありました。
◆偶然の出会い
日本酒「熊本城」を製造する瑞鷹は、1867年創業、熊本市・川尻に構える老舗です。料理酒として愛用されている「赤酒」や、社名を冠する日本酒「瑞鷹」、焼酎などを製造してきた蔵。4月の地震では、震源に近かったこともあって大きな被害を受けました。
瑞鷹とジブリの出会いは、震災から約2か月後に訪れます。
6月初旬、都内某所。日本酒ファンを集めた瑞鷹を応援する会が開催されました。この会に偶然、ジブリのスタッフが参加。運命の「酒縁」がつながります。「復興のために一緒にできることはないだろうか」。熊本への思いを胸に、まっさらな状態から動き出しました。
話し合いを重ね、当時準備中だった展覧会のテーマが「建造物」だったこともあり、熊本のシンボル・熊本城の復興を支援すべく、日本酒「熊本城」をオリジナルラベルで販売することとなったそうです。
◆“熊本産”にこだわる熊本城
「熊本城」は熊本城築城400年にあわせてつくられ、2004年から純米吟醸(720ml)が、2007年から純米酒(300ml)が、それぞれ熊本県内限定で販売されていました(現在は完売)。米も水も酵母も“熊本産”。とことん熊本にこだわった銘柄です。
今期からリニューアル。“熊本産”の原料を使う点は変わらず、開発されたばかりの初の県オリジナル酒米「華錦(はなにしき)」を使っています(720mlと300mlともに純米酒に統一)。
◆「字だったら書くよ!」
当初、新たにつくるラベルには、展覧会のチラシデザインを採用するという案が出ました。しかし版権の問題から実現せず。行き詰まるなかで、鈴木プロデューサーから「字だったら書くよ!」と提案を受けたといいます。こうして企画は実を結び、鈴木プロデューサー直筆「熊本城」「瑞鷹」の書を組み込んだ、オリジナルラベルの日本酒が完成。10月8日、展覧会の開始とともに店頭に並びました。製造量に限界があるため1万本限定。売り上げの一部は熊本城復興のために寄付されます。
打ち合わせのときには、こんなエピソードも。
瑞鷹スタッフがスタジオジブリを訪れたところ、たまたまジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」組の打ち合わせとバッティング。なんと、マイケル監督や宮崎駿氏の横で「熊本城」ラベルの話をすることになったのだそうです(なんて貴重な!)。このときお土産にと持参した日本酒は、日本好きなマイケル監督の手に渡ったそうですよ。

左:瑞鷹 吉村謙太郎常務、右:鈴木敏夫プロデューサー
◆「縁」はどこまでもつながる
震災から半年と少し。瑞鷹では9月末に今期の仕込みが始まりました。設備等が不足するなかでも、赤酒や日本酒の製造量は震災前の約8割の水準まで戻っているそうです。とはいえ、「全体的にはまだまだ復旧が進んでおらず」というのが現状。特に、余震や大雨が追い討ちをかけた建物の被害が大きく、修理できる職人がいないなど、復旧計画の見直しを迫られているといいます。


瑞鷹とジブリの「酒縁」から生まれた日本酒は、手にとった私たちお客をも結び付けます。縁はどこまでもつながっていくのです。

これからもおいしいお酒を楽しみにしています!
※蔵およびスタジオジブリでの写真は、瑞鷹からご提供いただきました。