長崎市の観光名所のひとつ「眼鏡橋」。この近くに、「きっちんせいじ」という変わった店があります。さほど人通りのない裏通りにあり、ともすると見逃してしまいそうですが、気づいてしまったら気になって仕方がない。見た目がまさに「ちんちん電車」なのです。
店舗の入り口は、蝶番で2枚の扉がつなげてある「折戸」。本当に電車に乗り込むかのような感覚で、店内に足を踏み入れます。
その先に広がっていたのは、路面電車と街、両方の歴史を感じさせる空間でした。
まず右側の壁には、市内にある観光地の写真が飾られているのですが、よく見ると、写真パネルがぶら下げてあるのは吊革。その下にある壁沿いのソファ席は、電車の座席なんです。そして左側の壁にもたくさんの写真。その手前にある大きなガラステーブルの中には鉄道模型がぎっしりとつまっているのです。キッチンに向かうカウンターには、実際に2001号電車で使われていたというイスも。
店内…もとい、車両の隅には、運転席や、電停の看板らしきものも置いてあり、ちょっとした博物館のよう。食事をしに来たことを忘れて、じっくりじっくり見入ってしまいます。
と、壁際に怪しいのれんを発見。いや、のれん自体はかわいらしい鉄道の模様が描いてあるだけで怪しくないのですが、その先の空間が怪しいのです。プライベートルームか?と思っていると、後から訪れた常連さんらしき人たちが入って行くではありませんか。
勇気を出してくぐってみると…そこには、壁一面に漫画が並べられた、電車博物館とは全く別の空間が現れたのです。
壁の本棚には、上から下まで漫画がぎっしり。入りきらないものは手前の小さな棚に並べ、さらに溢れたものは横積みにされているという、こちらも“博物館”のような空間になっています。少年誌や青年誌の作品を中心に、有名なタイトルがずらっと並んでいます。
常連さんは、迷わずこちらの空間へ。きっと読み進めている作品があるのでしょう。これは通いたくなりますね。
さて、そろそろ席に落ち着きましょう。選んだ座席は、電車の座席に座れるソファ席(?)です。
メニューを見てみると、看板メニューであり、長崎名物である「トルコライス」(900円)をはじめ、オムライス、ハンバーグ定食、日替わり弁当、カツカレーなど、“町の洋食屋さん”らしきメニューが並んでいます。そして、価格も内容も嬉しい「サービスランチ」。ハンバーグや豚のしょうが焼き、ごはんに、唐揚げやクリームコロッケなどが日替わりでついて600円。価格も内容も嬉しいランチです。
フトコロ事情としてはサービスランチを頼みたかったのですが、ここは目をつぶってトルコライスをオーダーします。ほら、“大人”ですから。
トルコライスは、長崎発祥の食べ物として、ちゃんぽんに次ぐ地位を築いているのではないかというボリュームたっぷりメニュー。とんかつ、カレーピラフ、スパゲティを一皿に盛ったもので、“大人のお子様ランチ”なんて言われることもあります。名前の由来には諸説ありますが、トルコのメニューが日本に来てトルコライスになった、というわけではないみたい。ともかく、長崎のトルコライス=大人のお子様ランチ、なのです。
待つこと数分、トルコライスが運ばれてきました。スパゲティとカレーピラフの上に、ソースをかけたとんかつをトッピング。お皿の端にはサラダとオレンジが添えてあります。
こちらのカレーピラフは、ドライカレースタイル。たまごが混ぜてあり、カレーの香りはありながらもまろやかです。とんかつはごくシンプル。スパゲティもシンプルで、なつかしい味です。全体的にまろやかな味わいという印象でした。
ここで忘れずにおいてほしいのが、卓上に置いてある自家製マヨネーズ。これがものすごくうまい。一般的なマヨネーズよりも酸味が少なく、とてもたまごの味が濃厚です。サラダにたっぷりつけていただきたい味でした。
鉄道ファン、漫画好き、そして食いしん坊。訪れる人を魅了してやまない同店は、観光客はもちろん、地元の人も数多く訪れるようで、混雑していることが多いそう。コアタイムは避け、店内も料理もじっくり楽しむのをオススメします。