黒霧島を製造している「霧島酒造」に行ってみると…これ、サツマイモ?
だいたいどの店に行っても置いてある(と筆者は思っている)「黒霧島」。全国で抜群の知名度をほこる芋焼酎だ。筆者自身、店ではもちろん、最近はパックを買って家で飲むことも多い。食中酒としても、それだけで飲んでもイケる、万能選手だ(と筆者は思っている)。
そんな有名焼酎のルーツを探るべく、筆者は製造元である霧島酒造の工場を訪れた。今回は、そこで驚いた3つのことをご紹介したい。
【その1】鹿児島ではなく宮崎にある
(そこか!とツッコミたくなる気持ちは、とりあえず置いておいてほしい。日々お世話になっておきながら、本当に知らなかったのだ。)
芋焼酎といえば、九州の中でも鹿児島県の印象が強い。そして「霧島」といえば鹿児島県霧島市をイメージする。つまり、霧島の名を冠する霧島酒造は鹿児島県にあるものだとばかり思いこんでいたのだ。しかし実際には、創業以来100年近く、宮崎県に本社を置く企業だった。
本社からは霧島連山が望める。
取材日は見事な快晴で、非常に美しかった
本社および工場は、宮崎空港から南西に向かって車で1時間ほど、鹿児島県との境にある宮崎県都城市(みやこのじょうし)にある。同市の地下に蓄えられた天然水「霧島裂罅水(きりしまれっかすい)」を使用。4つの工場のうち志比田増設工場で見学ツアーが実施されていて、無料で参加できる(予約制)。原料が次々と加工されていくようす、大きなタンクのなかでまさに発酵しているさま、なかなかインパクトがある。
【その2】原料のサツマイモは白い
芋焼酎の主原料は、もちろんサツマイモだ。同社の焼酎にも「黄金千貫(こがねせんがん)」というサツマイモが使用されているのだが、皮が紫色ではなく白っぽいのである。まるでジャガイモのようだ。
蒸したての黄金千貫。大きなものはヒョウタンのような形をしている
特別に蒸したてを食べさせてもらった。やはり見た目はジャガイモのようだが、断面からはサツマイモらしい色と繊維がみてとれる。食感はサツマイモ。一方で味は、焼き芋などで食べるものとは異なり、甘みが強くない。不思議な感覚だった。
黄金千貫にはでんぷん質が豊富に含まれており、焼酎づくりに最適な品種のひとつなのだそう。ほとんど一般の市場には出回らないらしいが、もしもどこかで見つけたら食べてみてほしい。お菓子よりも料理に適しているそうだ。
道の駅にて。売っているじゃないか!と思ったら、紫芋だった
page 焼酎メーカーだが「塩パン」を食べて欲しい
【その3】焼酎以外にも“名物”が!?
一般に開放されている志比田増設工場は、同社が運営する複合施設「霧島ファクトリーガーデン」に併設されている。同施設には、ミュージアムやホールなどがあるのだが、この一角にベーカリーやブルワリー(ビール醸造所)が設置されていて、人気があるのだとか。
「霧の蔵ベーカリー」では、焼酎の製造工程で発生する“焼酎モロミ”を使ったパンが販売されている。食パン、惣菜パン、菓子パンとさまざまな種類が並ぶなか、県内の塩を使った「塩パン」(90円)が大人気。中心には高千穂産バターをたっぷりと閉じ込めてあり、温めるとそのバターが溶け出す。底のカリッとした食感、バターの芳醇な香りと塩気がたまらない。焼き上げる分ずつ売れていくというから、その人気はホンモノなのだろう。
また「霧の蔵ブルワリー」は、地ビール醸造施設とレストラン、ショップが一体となった施設。ここでは同社オリジナルの地ビール「霧島ビール」が楽しめる。焼酎と同じく霧島裂罅水で仕込んであり、ラインナップはブロンド、ゴールデン、スタウト、そして日向夏。どれもキレがよく、すっきりとした後口だった。
【番外】地元の人の“白キリ愛”
ご存知の方も多いだろうが、“霧島シリーズ”には黒霧島のほか、「赤霧島」や「白霧島」などがある。このうち白霧島は、「霧島」として80年以上販売されてきたものだが、1月に名称変更とともにリニューアルされた。黒(1999年全国発売)や赤(2003年発売)よりだいぶ先輩だ。しかし多くが県内で消費されるらしいので、県外の人からすると黒霧島のほうが“おなじみ”だろう。
白と黒の違いは、麹(こうじ)にある。白霧島には白麹が、黒霧島には黒麹が使用されているそう。飲み比べてみたところ、白のほうが芋の香りが強くどっしりとしている。飲みやすさは黒が勝るが、(もちろんいい意味で)くさい焼酎が好きな筆者は白が好みだ。地元でもそういった志向が強いようで、特に長年愛飲している年配の方には“白キリ派”が多いらしい。ちなみに、現在の県内での割合は五分五分とのこと。
■ 実は日本一
9月、2014酒造年度の芋焼酎の出荷量において、初めて宮崎県が鹿児島県を上回り、“日本一”になったとの発表があった。黒霧島の販売量が伸びたこともその一因だという。さらに同社は、焼酎・泡盛メーカーの売上高ランキングでも3年連続で1位を獲得している。誰もが認める大企業だ。
工場は、安定した生産量を確保するために機械化が進んでいるが、製法そのものは昔と変わらないという。人の手のかわりに機械で麹をつくるようになっても、かめのかわりに大きなタンクで貯蔵するようになっても、ひとつひとつ出来は異なる。それを専属のブレンダーが細かく判定し、ブレンドして、市場に送り出すそうだ。
地元の素材を大切にする姿勢、品質を、味を追及する姿勢をしっかりと感じられた工場見学だった。見学後の1杯が格別にうまかったのはいうまでもない。