パンケーキ・ノート』の著者トミヤマユキコさんは、9月に実施されたあるイベントで次のように語っています。

「行列店に並んで話題のパンケーキを食べるのだけがパンケーキの楽しみ方じゃない。もうちょっとマニアックにパンケーキに関わるという楽しみ方もあると思う」

ケン・アルバーラ氏の著作『パンケーキの歴史物語』は、“マニアック”にパンケーキと関わりたい人にオススメの一冊。パンケーキの定義やその発祥、世界で行われているパンケーキイベントの他「日本に昔からあるパンケーキ」についても書かれています。

パンケーキだけで約160ページもの本を書いてしまったケン・アルバーラ氏。いったいどんなことが書かれているのか気になりませんか?今回は、同氏の語る奥深いパンケーキの世界を少しだけご紹介します。

■ケン・アルバーラ氏の定義する「パンケーキ」とは?

そもそも、パンケーキって何でしょう?普通は「平たい鍋で焼いたケーキ」くらいの認識ですよね。

ケン・アルバーラ氏は違います。彼は大学教授らしく、パンケーキをガチガチに定義しちゃっています。

「パンケーキはでんぷんを主成分とする食べ物であり、熱したフライパンや鉄板などの上に生地を流しこみ、固まるまで調理したものである」

この定義によると、ホットケーキはもちろんクレープやガレット、さらにはお好み焼きやたこ焼きまでもが「パンケーキ」のカテゴリに分類されるとのこと。また、パリっと焼き上げたアイスクリームのコーンもパンケーキの“親戚”なのだとか。

日本人はよく「お好み焼きは広島風と大阪風のどちらが美味いか?」について言い争っていますが、そんな話はケン・アルバーラ氏の前では無力です。だってどっちも「パンケーキ」にされちゃうのですから。

■パンケーキは「肉」?

パンケーキといえば、普通は「スイーツ」もしくは「粉物」といったイメージですよね。でもケン・アルバーラ氏によれば、パンケーキは「肉」なんだそうです。パンケーキが「肉」って...?いったいどういうことなのでしょうか。

本書によると、小麦粉に卵と牛乳という“タンパク質”を混ぜて作られるパンケーキは栄養価も高く、パンと肉(タンパク質)両方の役割を一挙にはたしているのだとか。安価で腹持ちも良く簡単に作れるとあり、手っ取り早くエネルギーをチャージしたい世界中の農民や労働者たちにとって、うってつけの食べ物だったようです。

本書の中で引用されている『農村の主婦の友』には、このようにあります。

「パンケーキは、農民や自由農(ヨーマン)、ジェントルマン階級にとって、じつに好都合な食べ物だ。(中略)簡単に作れるうえに、携帯性にもすぐれ、肉とパンの役目もはたしている...」

以前からパンケーキは肉だと主張されていたトミヤマさんも、違った視点からパンケーキの“肉性”をこのように語っています。

「パンケーキは肉だ。老舗のパンケーキ屋では、お客さんからレア、ウェルダンなど焼き具合を指定されることもあり、肉のように扱われている。ナイフとフォークで食べるのも、パンケーキが肉である証拠」

■日本代表パンケーキ「どら焼き」に見る“なつかしさ”

ケン・アルバーラ氏は、パンケーキが子供のころの思い出や楽しい記憶と直結し“なつかしさ”を誘う食べ物だと主張しています。そして、日本にも昔から“なつかしさ”と結びつくパンケーキが存在すると言うのです。それはなんと「どら焼き」。

「パンケーキをなつかしさや家庭中心の価値観とむすびつけるのは、西洋だけの現象ではない。日本では、どら焼きがパンケーキと同じような位置を占めている」

ケン氏は日本を代表する漫画「ドラえもん」を例に挙げ、ドラえもんの大好物であるどら焼きと、漫画の読者である子供たちとの切っても切れない関係性を主張しています。

「どら焼きは、漫画に登場する有名なキャラクター『ドラえもん(ネコ型ロボット)』の大好物でもある。どら焼きと子供たちとの関係は、西洋におけるパンケーキと子供たちとの関係と同じく、かなり強固なものだといえる」

...独特な見解ではありますが、意外と的を射ているような気もしますね。

あのネコ型ロボットの大好物は、日本を代表するパンケーキだった  (C) susi-paku
あのネコ型ロボットの大好物は、日本を代表するパンケーキだった
(C) susi-paku

■パンケーキに関する世界の“珍”イベント

ケン・アルバーラ氏の語るパンケーキは、それだけでは終わりません。世界のパンケーキに関するイベントや祭典についても紹介しちゃっています。そんなものがあることすら、普通は知りませんよね。

本書で紹介されている「パンケーキ・レース」は、英国にルーツをおく伝統的なイベント。出場者はドレスとエプロンを身にまとい、スカーフをかぶって、パンケーキをひっくり返しながら教会を目指すというもの。最近では女装をして走る男性もいるのだとか。なんともシュールなこのレースが始まるきっかけとなった逸話について、99ページにはこのようにあります。

「ある日の朝、とりわけ熱心な牧師が鐘を鳴らしたとき、まさにパンケーキを焼いている最中の主婦がいた。彼女はエプロンをつけたまま、フライパンを片手に外に飛びだし、作りかけのパンケーキを無駄にしないように、何度もひっくり返しながら教会への道を急いだという」

なるほど、敬虔で真面目な彼女と同じ格好をして教会めがけて走ることで、キリストとパンケーキ両方への尊敬と忠誠の意を表している...のかもしれません。

パンケーキをひっくり返しながら教会を目指す様子
パンケーキをひっくり返しながら教会を目指す様子

トミヤマさんは、パンケーキと祝祭の関係についてこう言っています。

「パンケーキは歴史が長いので、日本人にはとても不思議に見える文化的行事がたくさんあるんです」

そう。パンケーキはブームになるずっと前から、世界各地で食べられ、それにまつわる文化的行事をも生み出していたのです。

もっともっとパンケーキの歴史やイベントについて知りたいと思ってしまった方は、ケン・アルバーラ氏の『パンケーキの歴史物語』を読んでみてください。Amazon.co.jp などで買えますよ!