福田里香さんによる「フード三原則」とは?

「善人は、フードをおいしそうに食べる」
「正体不明者は、フードを食べない」
「悪人は、フードを粗末に扱う」

これが福田里香さんが提唱する「フード三原則」です。

対談の第三部では、福田里香さんによるフード理論と、その理論をもとにトミヤマユキコさんが独自に編みだされた「パンケーキにまつわるフード理論」が紹介されました。

「フード三原則」について語るトミヤマユキコさんと福田里香さん
「フード三原則」について語るトミヤマユキコさんと福田里香さん

トミヤマユキコさん「フード三原則とは、ごく簡単に言うと、『物語に食べ物をうまく登場させると、登場人物の性格や感情、置かれた状況などを分かりやすく受け手に伝えられる』という理論です。三原則の1つ目は『善人は、フードをおいしそうに食べる』なんですが、福田さん、これを説明して頂けますか?」

福田里香さん「腹の底を見せたってことですよね。食べ物をおいしそうに食べれば、こいつ、信用できると観客は無意識に思う。裏表の無い奴って、登場して『かぁちゃん、腹減った』と言って、ガツガツガツと食べる。見ている観客は憎めないですよね」

トミヤマユキコさん「なるほど。2つ目の『正体不明者は、フードを食べない』。これは?」

福田里香さん「腹の底が見えないってことですよ。何を考えているかわからない奴には、フードを食べさせないことが多いんです。例外的に食べているのは、ものすごく変わったものだったりします。例えば、ドラキュラは人の血を飲む。ゾンビは、人の肉を喰らう。自分とは違うものを食べるってことで、底知れない怖さを感じさせることができるんです」

トミヤマユキコさん「3つ目は、『悪人は、フードを粗末に扱う』」

福田里香さん「これは食べても、食べなくてもいいんですよ。ただ、食べ物を粗末に扱うと、すごく悪い奴に見える。例えば今私がこれ(この日のイベントのために用意されたクッキー)を、踏みつけるじゃない?そしたら、私のこと、絶対嫌いになるよね。

でも、よく考えてみて。これ、原価いくらよ?10円もしないよ。だけど、これを踏みつけにすると、作ってくれた人の気持ちも含めて踏みつけることになる。仮に私がトミヤマさんを殴ったとしましょう。それと比べたとき、どっちが悪い奴に見える?ことによっては、クッキーを踏みつけた方が、嫌な奴に見えるかもしれないよね。

良い作品っていうのは、そういうことを、物語上うまく使ってあるな、というのを私は常々思っていたんです」

トミヤマユキコさん「その『常々思っていた』というのが、すごいとこなんです。フード理論三原則は、言われてみればその通りだし、理解できるんだけど、なんで今まで気付いてなかったんだろうと思うものばかりで。普通は、ストーリーを追うっていうのが作品を味わうってことなんだけど、ストーリーではなく、食べ物にフォーカスする。そのことによって、作品を読み変えることが可能になるんですね」

■「パンケーキ版フード理論?」

続いて、福田里香さんのフード理論をもとにトミヤマさんが編みだされた、「パンケーキ版フード理論」が紹介されました。コミック作品中にパンケーキが登場する場合、そこにはある法則が存在するそうです。

トミヤマユキコさん「ちょっと前に、別のイベントで『マンガ食堂』の著者である梅本ゆう子さんと対談をしました。パンケーキが登場する漫画を2人で読みまくって、みなさんに紹介しまくったんです。食べられもしない、紙の上のパンケーキを2人でひたすら語ったのですが、そのときに気付いたマンガの中でのパンケーキの描かれ方に関する法則をこれから発表します」

◆パンケーキ版フード理論その1:マンガの中のパンケーキは宙を舞いがち    

 パンケーキが宙を舞う『猫とパンケーキ』
パンケーキが宙を舞う『猫とパンケーキ』

トミヤマユキコさん「(スライドに表示されたコミックの1コマを指しながら)これは、笠井スイ先生のコミック『猫とパンケーキ』です。割と落ち着いたトーンで描かれていて、どちらかというと静かな作品なんですけど、それでも飛ばすときには飛ばすんですよ。ほら!飛んでるでしょ?」(会場笑)

福田里香さん「一回焼いたことがあればわかるけど、パンケーキは飛ばせないよね」

トミヤマユキコさん「飛ばないです!でも、コミックの中では飛ぶんですよ。萩尾望都先生のコミックでも『ケーキ ケーキ ケーキ』という作品があって、それとか飛距離がすごいんです」

パンケーキ版フード理論その2:海外では高さ、日本では分厚さを主張しがち

トミヤマユキコさん「2つ目は、海外では高さ、日本では1枚の厚さでボリュームを表現しがちということです。例えば、海外作品の『ちびくろサンボ』では、高さを枚数で表現しているんです。だけど日本の作品では、1枚が分厚いことの方が重要なんですね。ドラえもんでは、スネオ家のパンケーキは分厚いものが4枚。対して、のび太家のパンケーキは、3枚。スネオの家が金持ちということを、分厚さでさりげなくアピールしています。

今日お渡しした資料には、今述べたことがまとめてあります。ちょっとリストを見てもらえますか?」

トミヤマさんが配布された資料の一部
トミヤマさんが配布された資料の一部
 

福田里香さん「結構、宙に舞ってますねぇ」

トミヤマユキコさん「舞っているんですよ。飛距離に関しては、やはり萩尾望都先生の『ケーキ ケーキ ケーキ』が一番飛んでいるんじゃないかって思う。

枚数では『ちびくろサンボ』。169枚でこれはリストに挙げた中ではダントツですね。

高さでは、川上未映子さんの『水瓶』という詩集に収められた、4人家族がホットケーキのタワーを作るという詩がすごい。焼いては積み上げまくるんですよ。最後に、お母さんがホットケーキタワーの上で、頭からシロップをかぶって終わるって詩で、川上未映子さんすごいなって思いました」

福田里香さん「川上未映子さんの芥川賞を取った作品は『乳と卵』でしたっけ?このタイトルには、 “これからパンケーキを作ります” って材料が並んでいますよね」(会場笑)

トミヤマユキコさん「確かに!そこからこの詩の着想を得ていたとしたら、すごいな。あとは、粉だけあれば」

福田里香さん「焼けばいいじゃんってね。そういうタイトルだったら面白かったのにね。『乳と卵、あとは粉だけあれば』」(会場爆笑)

パンケーキ版フード理論その3:登場人物たちが幸せであることを伝えるためにパンケーキを利用しがち

トミヤマユキコさん「パンケーキを、幸福や円満な人間関係の象徴として使うというのは、ここにあげたほとんどの作品でそうなっています。

『よつばと!』だと、作るんだけどうまくひっくりかえせなくて、フードを粗末にしたいわけじゃないんだけど、結果的に粗末にしちゃって悲しんだり、その後うまいこと焼けてみんなで楽しく食べる、みたいな表現になっています。

ドラえもんだけ丸が付いていないのは、あれはメンバー全員が揃っているということが幸福っていう作品なので、フードで幸せは表現されていないんです。でも、大長編ドラえもんでは、プランクトンから作られたホットケーキを食べるみたいな表現もあったりしておもしろい。ドラえもんがプランクトンを使って、なんでも作ってあげるよって言ってるのに、しずかちゃんはなぜかホットケーキを要求するんですよ」
 
 プランクトンでできたホットケーキを食べるしずかちゃん
プランクトンでできたホットケーキを食べるしずかちゃん

福田里香さん「ドラえもんの“ドラ”って、どら焼きから来ているんでしょ?ドラ猫とも掛かってるのかな。どら焼きも基本、ホットケーキだよね」

トミヤマユキコさん「そうなんです。あんこをトッピングするかわりに、中にはさんでいるホットケーキの一種と言えなくもない。日本人の好きなホットケーキって、海外のパンケーキとは違って、焼き目しっかり、ふんわり、しっとりみたいなものですが、それは“どらやき先輩”がいるからだと思うんです」

■日本では、なぜ海外から入ってきた食べ物が独自の進化を遂げるのか?

話の中に、日本風パンケーキ“どらやき先輩”が登場したことをきっかけに、2人のお話は「日本ではなぜ海外から入ってきた食べ物が独自の進化を遂げるのか?」という方向に転がっていきます。

福田里香さん「日本での食の流行って、アグレッシブだよね。世界の他のどの都市と比べても、激しいと思う。日本のスポンジケーキなんて、海外のものとは全然違うんですよ。多分、あまりきれいに写真が撮れない時代に、話だけ聞いて、本場はこうじゃないかな?と妄想を膨らませた結果、独自に進化したんじゃないかなと思う」

トミヤマユキコさん「いとうせいこうさんとみうらじゅんさんの『見仏記』を読んだんですけど、京都にある仏像は、昔は誰でも見られるというものではなかったんですよ。それで、見た人が地元に戻って、思い出しながら真似をして仏像を彫るでしょ?人間の記憶には限界があるから、こんなんだったかな?って、自分なりの解釈を加えた結果、パースがくるって、変な仏像が完成しちゃうみたいなことがあったらしいんです。ガラパゴス化って言えば分かりやすいかな?食べ物も、同じかもしれません」

福田里香さん「まさにそうだと思う」

トミヤマユキコさん「日本の喫茶店にあるホットケーキなんて、海外には似たようなものなんか無いわけだから。海外から来た人が見てびっくりしたって話を聞いたことがあります。ジャパニーズパンケーキは、超うまいと。見たことがないと」

福田里香さん「カレーもそうじゃないですか。あとね、ラーメンとかも、なんで中国から食べに来ているの?って、不思議に思うじゃない?ラーメンは、日本人が中国から輸入したものだよって。でも、勝手に進化遂げているから、中国の人から見れば、『いや、こんなの中国にないから』ってことで、今となっては日本の観光資源になっている」

トミヤマユキコさん「日本のラーメン屋が中国に出店すると、中国人が並ぶとか、そんなおかしなことになっている」

福田里香さん「そう、おかしなことになってる。でも、おかしなことなんだけど、それが文化なんだよね」

トミヤマユキコさん「カルチャー的なものって、流行の中心と周縁を往復していく中で、洗練されたり、淘汰されたりするけど、そうしたムーブメントをどのタイミングで、どの場所でキャッチするかで、捉え方が変わって来るんでしょうね」

福田里香さん「生まれた場所とか、年代とかね」

トミヤマユキコさん「だから、せっかく2013年の日本にいるのであれば、パンケーキブームに乗っかって、楽しまなければ損ですよね。あと、多分しばらくの間は漫画家さんとかがパンケーキを作品中に登場させると思うんですよ。私はそれを収集して、定期的に福田里香さんに報告します!」

■対談を終えて

いかがでしたでしょうか?こうして文字にしてしまうと、福田里香さんの語り口から滲むユーモアや、トミヤマユキコさんの“突然のタメ口”からスタートする暴走ぶりが伝わらないのがとても残念です。

「2013年の日本でパンケーキを楽しまないのはもったいない」

トミヤマユキコさんはそう語られました。でも2013年の日本で、このお2人のお話を聞けなかったという方も、もしかしたらもったいないことをしたのかもしれません。
 
 会場ではお2人の著作も販売されていました
会場ではお2人の著作も販売されていました

 
福田里香さん提唱の「フード三原則」が解説された『ゴロツキはいつも食卓を襲う』
福田里香さん提唱の「フード三原則」が解説された『ゴロツキはいつも食卓を襲う』

トミヤマユキコさんの著書『パンケーキ・ノート』
トミヤマユキコさんの著書『パンケーキ・ノート』