
そんな三崎港で海に面して建つ「産直センター うらり」では、マグロをはじめ旬の魚介や野菜などの特産品のみならず、その場で楽しめる「マグロコロッケ」などのフードも販売されている。


その一角、和菓子屋「清月」で発見したのが、マグロを使ったスイーツ。

商品ポップには「マドレーヌにまぐろをいれちゃったから マグレーヌ」というおちゃめなキャッチフレーズと、“ふわふわのきじ”に“まぐろのそぼろたち”が入れられているという説明が書かれている。マドレーヌとマグロという組み合わせもさることながら、そぼろを“たち”と表現するところも斬新で、マグロへの愛を感じさせる。

そのわきに並ぶのが「かぶと焼き」。

こちらはまぐろの頭部を模した形状。あんが包まれているらしく、見たところは人形焼のようだが、ポップには誇らしげな「三崎のマグロ入り」の文字が踊る。商品説明によると、三浦沖海洋深層水が使用された小豆あんの中に、味付けをしたまぐろが練り込まれているそうだ。
どちらも味が想像できないが、塩により甘さが引き立てられるスイーツのように、魚(うお)によって引き立てられる甘さがあるのだろうか。どちらも1個180円(税込)という気軽な価格にもつられ、ひとつずつ購入してみた。
■三崎のマグロスイーツその1 マグレーヌ
形はシンプルな円形で、手のひらから少しはみ出す大ぶりのサイズ。表面にまぐろと思しきものの姿はなく、一見したところでは普通のマドレーヌと変わらない。

原材料は小麦粉、砂糖、鶏卵、バター、植物性油脂、マグロ、味醂(みりん)、醤油。

パッケージから取り出すと、バターとタマゴの甘い香りに混ざって、甘辛い煮つけのような香りがふわり。カットすると、生地の下部にマグロの身が観測できた。


生地ばかり食べていては、残りのマグロ率が上がる一方。意を決し、マグロ部分をぜいたくに含んでひと口かじる。ややぽそりとした食感のマグロは最初は主張をしないが、サリサリと噛むうちに水分を得、徐々にそのあまじょっぱさを口の中に回遊させてゆく。あまじょっぱさが最高潮となるころには、生地は溶けて甘やかな波となり、マグロをたゆたわせる。甘い、しょっぱい、でもそれだけじゃない…。力強い、動物性たんぱくの味が口の中に満ちる。

想像していた生臭さはなく、違和感もそれほどではなかった。しかしマドレーヌとして本当に美味いので、マグロが入ってない状態でぜひ味わってみたい。
■三崎のマグロスイーツその2 かぶと焼き
見た目はマグロの頭部を模した人形焼。手のひらに乗る可愛らしいサイズだ。

原材料は小麦粉、砂糖、鶏卵、白餡、小豆、はちみつ、蜂蜜、まぐろ、味醂、醤油、清酒、食塩、膨張材。
袋を開けた瞬間あふれ出るのは菓子らしい甘い香りではなく、甘露煮のパックを開けた時のような香り。口には切れ込みが入れられ、マグロの顔がリアルに再現されている。


カットしてみると、たっぷりのあんに、角切りのマグロがごろごろ。

想像よりしっかりした生地は、噛むとぽろぽろと細かく砕け、なめらかなあんに混ざり込む。ひと噛みふた噛みめ辺りまでは、しょっぱめのあんに何か固形物が入ってる…塩豆かな?といったところ。しかし噛み進めるうちにマグロの繊維がほぐれ、あまじょっぱい味が支配を強めていく。しっかり甘いあんが量で圧倒しているはずなのに、塩味、うお味がしっかり。これが三崎のマグロの力なのだろうか。
なお今回、マグロのパンチに対応できるよう濃いめのコーヒーを用意したが、甘辛い煮つけの味との相性があまり良くなかったので、日本茶などを用意したほうが無難かと思われる。
■まとめ
どちらも、口に入れた瞬間は普通のお菓子。噛むうちにマグロの繊維からあまじょっぱさが染み出し、時間を追うごとに変化する味わいが楽しめる。ドライフルーツなど目ではないほど、味・余韻ともに濃く長く続くのも特徴だろう。じんわり移り変わり、果ての見えない味わいには、大きな海を渡るがごときストーリーがある。しっかり舵を取り、無事帰港できるかは食べ手に委ねられるだろう。
