
ジャズ オリンパス!の真っ赤なカレー
知る人ぞ知るここのカレーには熱狂的なファンも多く、私(筆者)も1度食べて以来、すっかりその味の虜となってしまったひとり。なのに、お店のマスターは断固として「うちはカレー屋じゃない」と言い張ります。いったいなぜ…?
というわけで今回は、そんなカレーの街・神保町の“アウトサイダー”、ジャズ オリンパス!をご紹介します。
●タイムスリップしてきたような店内
ジャズ オリンパス!は、神田小川町のビジネスホテル「昇龍館」1階に入口があります。うっかりすると見落としがちなので、「お茶の水ホテル 昇龍館」の看板を目印に。


扉を開けると、耳に響いてくるのは心地よいジャズミュージック。よけいな装飾品のないシンプルな店内には、どこかノスタルジックな雰囲気がただよっています。さっきまでの都会の喧騒はここにはなく、突然ひと昔前の喫茶店にタイムスリップしてきたみたい。
テーブルや椅子が整然と並べられたホールの奥に目をやると、このお店の“主役”ともいえる大きなスピーカーが堂々と鎮座しています。


そう。ジャズ オリンパス!はカレー屋ではなく、夜はバーとして営業しているジャズ喫茶なのです。店名の「オリンパス」というのは、このスピーカーの名前なんだとか。
マスターが「できるだけアーティストの感情が伝わるように」と選び抜いたというスピーカーから流れてくる音は、まるで目の前でバンドの生演奏を聴いているかのように臨場感たっぷり。ふと見ると、コーヒーを片手にじっと目を閉じて、ジャズに聴き入るお客さんの姿も。
●1度食べたら虜「赤いチキンカレー」
とはいえ、色気より食い気のわたくし。ジャズに耳を傾けつつも、やはり意識はどうしてもカレーへと向かってしまいます…というわけでマスター、カレーください!!

待つことしばし。かぐわしいスパイスの香りとともに現れたのは、目にも鮮やかな真っ赤なルウに、チキンがごろりとふたつ浮かんだカレーライス。こんもりと盛られたごはんは、つやつやピカピカです。

ルウを口へ運ぶと、その瞬間、辛み、うまみ、甘み、コク…いろんな味が一気に押し寄せてきました!形は見えないのに、口の中を縦横無尽に駆けめぐるこの複雑な味はいったいなぜ…!?

ルウには、玉ねぎ、トマト、パプリカがトロトロになるまで煮込まれているほか、唐辛子やガーリック、黒コショウなど10数種類のスパイスが加えられているそう。なるほど、だからこんなにも奥深い味がするんですね!ただし赤色は唐辛子ではなくトマトとパプリカの色なので、辛さレベルは見た目で想像するよりも控えめ。痛みを感じることのない、心地よい辛みとスパイスの香りがクセになり、食べる手が止まらなくなります。
また、岩手あべ鶏を使ったぷりっぷりのチキンは、口に含むとフワッとやわらかく、噛むとほろほろ身がほどけていきます。

さらに、新潟産コシヒカリを100%使っているというごはんは1粒1粒がしっかり立っていて、トゥルンとなめらか。噛むほどに甘みが広がります。しっかりとした弾力とコシがあり、サラッとしたルウを受け止めるにふさわしい存在感。

カレーの価格は900円、ドリンクセットは1,050円から(ランチタイム)。ちなみに、筆者オススメのドリンクは「チャイ」(セット価格1,150円)。まろやかな甘みが、カレーを食べた直後のホットな舌をやさしく包み、やや強めに効いたシナモンの香りが異国情緒を誘います。

●辛いのが苦手な人はハヤシライスを
カレーは辛いので苦手、という人には、牛肉とシメジ、玉ねぎをデミグラスソースでじっくりと煮込んだ「キノコのハヤシライス」もありますのでご安心を。

具だくさんのハヤシをほお張ると、濃厚なコクが口いっぱいに広がります。まろやかなルウをまとった柔らかい牛肉、しゃきしゃきと歯ごたえの良いシメジ、舌の上でとろける玉ねぎ。具材のうまみたっぷりのハヤシがじんわりと胃袋へ流れおちていく感覚は、まさに至福!

誰からも愛されるやさしい味で、どこか昭和情緒を思わせる懐かしいおいしさ。味・ボリュームともに文句なしの一品です。こちらも価格はカレーと同じ。
●きっかけは「手抜き」、でもカレーにはこだわり
マスターが“脱サラ”してオープンしたというジャズ オリンパス!。先にお伝えしたとおり、これほどカレーが有名になった今でもマスターは「うちはカレー屋ではなく、ジャズ喫茶です」ときっぱり。そもそもランチ営業を始めたきっかけも、「界隈で働くビジネスマンが、食事をしながら(仕事をサボって)効率よくジャズを楽しめるように」との理由からだとか。

(写真はマスターではなくスタッフさん)
そんなお店なので、ランチメニューをカレーにしたのも「食器(=洗い物)が少なくて済むから」だとか。たまたま神保町にあるってだけで、カレーを主役にしようとはまったく考えていなかったそうです。
きっかけはなんとも手抜きですが(失礼)、調理には手を抜かないこだわりよう。カレーに使っている食材も、産地や質、味の相性にとことんこだわって仕入れているとか。“極上のジャズ”を流すために音響機材を選ぶのと同じように、料理にもこだわり抜いた素材を使っているからこそ“極上のおいしさ”に仕上がるんですね。
カレーが目当ての人はジャズに、ジャズが目当ての人はカレーに。ここへ来れば、きっと新たな興味の対象を発見できるはず。たまにはひととき現実を忘れ、都会のオアシスのようなお店 ジャズ オリンパス!で、極上のジャズとカレーの味に酔いしれてみては!