
泉区は、横浜市の中でも最大規模の農地面積を持つのどかな地域だ。野菜畑に囲まれた環状4号線を南から北に進んでいくと、右手に黄色いちょうちんと黒い看板が見えてくる。ここが今回の目的地のはずなのだが、看板には「黒い博多ラーメン ラーメン自由人」の文字。
向かっていくと…なんだこれは!手書きのボードがたくさん並んでいる。「みんな!オラに元気をわけてくれ!よってくれ!!たのむ!!!!」「黒い博多ラーメン ¥500」などなど…。しかしこれらボードをよく見ると、下に小さく「(c)IZMYLAND」と書いてある。IZMYLAND、イズミーランド…そう、テーマパークの正体はラーメン屋だったようだ。



向かって左手が駐車場、右手には店舗と思しき小屋があり、その壁にはまたたくさんのボードが置いてある。ひとまず「順路」と示されたとおりに進もう。

壁を回り込むと、カフェテラスのようにオシャレな(気がする)ベンチやブランコが現れた。

しかし、オシャレスペースではない。例えばベンチの上には「幸せの黄色いベンチ」と書いてある。ただのベンチにしか見えないが、このベンチに座って一緒に写真を撮ると、永遠の絆が生まれるらしい。周囲を見回したが、一緒に写ってくれるかわいい女子は残念ながらいなかった。

左隣には、「呪いの黒ベンチ」と名づけられた黒いベンチがある。座った瞬間「大いなる暗闇の呪力」によって呪われるらしい。ほかにも、入れた手紙が「いちど四次元にいき、いっしゅんにして三次元にもどってくる」ふしぎな四次元ポストや、そこで手を洗うと7日以内にラッキーなことが起こるという「いずみの泉」、駐車場の奥にある落書き(?)だらけの「傷ましきトイレ」まで、とにかく色々な物があり、すべてに名前が付けられている。これらすべてがアトラクションということらしい。ひとつひとつを丁寧に読んでいるだけで楽しく、そして疲れる。そろそろ空腹がピークだ。早くラーメンが食べたい。

黒いベンチを恐々と通り過ぎると、赤いのれんがあった。よかった、「ラーメン」と書いてある。ここが入り口のようだ。

怪しげなのれんをくぐると、右手に券売機が置いてある。すでにカオス!文字が多い!看板にもあった「黒い博多ラーメン」以外にも、一番人気だという「九条ネギのラーメン」、マッスルになれそうな「キン肉ラーメン」、よく分からない開運ラーメン「ノリノリラーメン」。そして、キン肉マンだけでなく「ジョジョラーメン」まであるぞ。トッピングのコーナーには「ゆでたまご」のボタンも(味玉のことらしい)あり、どこまでもネタが細かい。

何を食べるか散々迷った末、店員さんと相談しながら決めることにした。恐る恐る券売機横の階段を上がってみる。

階段を上ると、そこは本当にラーメン屋だった。手作り感満載で不安になる建物の中にいるということをのぞけば、よく見かけるカウンターのラーメン屋のような雰囲気。と、中央あたりの天井から鉄人28号がぶら下がっている…?

店内を見渡してみると、いたるところに漫画やアニメのフィギュア、シールなどが飾られているではないか。券売機でやたら推されていたキン肉マンのフィギュアたちにはじまり、ビックリマンシール、ダースベイダー、小さな紙が入れてあるホルダーにはコップのフチ子さんもいる。天井にも壁にも店内の備品にも、必ず何かのグッズがついているのだ。よくここまで集まったものだ…思わず見入ってしまった。





おっといけない、すっかりラーメンを注文するのを忘れていた。たくさんのグッズに囲まれながらラーメンを作っていた店主さん(ラーメン閣下と呼ばれている)と相談のうえ、ノリノリラーメン+明太子に、明太子に合うから!とオススメされたバターをトッピングし、オーダーした。

開運ラーメンは、2種の海苔がのっているから「ノリノリラーメン」。現在建設中の神社のご利益もあるかもしれないという。…ちょっと待て。神社ってなんだ!?
閣下によると、店の向かいのスペースに建設中なのだとか。外に出て確認してみると、すでに賽銭箱などが設置されていた。キャベツ畑の真ん中にあり、かなりシュールだ。夏には鳥居を設置したいそう(あくまで予定)なので、行く人は忘れずにお参りしてほしい。


店内に戻ると、ラーメンが完成していた。渡されたのはまさに真っ黒なラーメンだ。器のフチに沿うように四角い焼き海苔が盛り付けられており、器の真ん中には磯海苔がこんもり。その上に、チャーシューと丸ごと明太子、そしてバターが盛り付けられている。

これが黒いラーメンかと食べ始めると、真髄が表れた。黒いラーメンとは、黒いスープのことを指していたのだ。こちらは、博多ラーメンの特徴であるとんこつスープと、横浜発祥の「家系」ラーメンの特徴でもある「しょうゆ」を加えたもの。つまるところ、とんこつしょうゆのようなものだ。

濃厚なスープは予想に反してとんこつ臭くなく、ほんのりとしょうゆの甘さが残り、うまい。たっぷりと盛り付けられた海苔のおかげで味の変化も楽しめるし、何より贅沢に明太子にかぶりつけるのがいい。たっぷりとバターに絡めていただきたい。非常に満足な一杯だった。
それにしても、なぜこのようなラーメンそっちのけにも見える店にしたのか。閣下に聞いてみると、ラーメン自由人はあくまで“イズミーランド内にあるアトラクションのひとつ”というスタンス。「楽しかった」と帰ってもらえる“テーマパーク”にしたかったらしい。
アトラクションなどは全て閣下のアイデア。店舗はトラックの荷台を改装したもので、店内は閣下の好きなキン肉マン、ドラゴンボール、ジョジョの奇妙な冒険、デーモン閣下などのネタで溢れかえっている。常連さんが持ち込んだものも多く、どんどん増えているそうだ。

閣下の探究心はとどまるところを知らない。「完成したばかり」と案内されたのが、入店するときに「これはゴミか?」と疑ってしまった店先の丼だ。これもアトラクションだという。その名も「謎の出前」。閣下は何でもない構造物に名前をつけ、ストーリーを与えるのが好きなのだそうな。次は何ができているのか…それを楽しみに訪ねるのもいいかもしれない。

入るまでには少し勇気が必要だが、入ってしまえば楽しいアニメグッズとキャスト(スタッフのことだ)、おいしい博多ラーメンが待っている。この記事を見て行ってみたくなった人は、ぜひお店で「えん食べを見た」と伝えて欲しい。「100円分のトッピングもしくは替玉」をサービスしてもらえるぞ(2014年8月31日まで)!
なお、Twitter(@hideakisugano) や Facebook で閣下と友達になると、ステキなお心遣い(サービス)がいただけたり、新アトラクションの紹介…もとい自慢を聞けたりするらしい。まずこれらで閣下について下調べをしてから、お店に向かうという手もアリだ。
