その中には、原宿のパンケーキ店をハシゴしたツワモノもいたことでしょう。でも、パンケーキを食べるだけでは飽き足らず、2人の女性がパンケーキをネタに、文化について語る様子を楽しんでいた、さらなるツワモノもいたようです。

ツワモノたちが集まっていたのは、原宿「VACANT」。そこで行われていたのは、『パンケーキ・ノート』の著者トミヤマユキコさんと、「フード理論」の福田里香さんによるトークイベント「原宿・夏のパンケーキ祭 ~食べたり 読んだり 喋ったり~」でした。

食に関しても少女漫画に関しても、そしてメガネ男子に関しても、一家言も二家言もあるトミヤマユキコさんと福田里香さん。このお二方の対談が面白くないわけがありません。
面白そうなものは見逃さないのがえん食べ編集部。というわけで、対談が行われる原宿へと出かけてきました。どんなお話が聞けるでしょうか?
■今回の対談の目的は?
8月2日から6日まで、原宿「ROCKET」で開催されたパンケーキイベントに出演されたトミヤマユキコさん。この日の対談では、
「単においしいパンケーキ店を紹介するだけでなく、多角的に、文化的にパンケーキを語りたい」
と考え、その目的にぴったりの福田里香さんを対談相手として指名されたそうです。

対談は三部構成となっており、第一部ではトミヤマさんが聞き手にまわり、福田里香さんがパンケーキブームの現状とこれからについて語られました。
■パンケーキブームについて福田里香さんが語る
◆パンケーキは「ファッションフード」?
福田里香さん「今年、『ファッションフード、あります。』という本が出版されましたね。世界規模ではないけど食の流行は昔からみられました。例えば、お伊勢参りに行けば、宿場宿場に名物があって、皆、それを楽しんでいました」
『ファッションフード、あります。』とは、畑中三応子氏による著書。本来、生きるために必要とされていた「食」が、日本が豊かになるにつれて「ファッション(流行)性」を持ちはじめた、と分析した1冊です。福田里香さんは、パンケーキは最新の「ファッションフード」だと指摘します。
福田里香さん「ただ、流行(ファッション)だからいけないとは言えない。変なものを食べることで、食が進化したのは間違いないから。おかしなキノコを食べたり、海の変な生き物を食べたりして、死んでしまった人間は多いと思います。パンだって、結構賭けじゃないですか。放置していたら膨れていて、匂い嗅いで大丈夫そうかな?…ってことで焼いて食べたら美味しかった、とか。だけど、ちょっと菌が違っていたら死んでいたかもしれないですよね。多分その繰り返しで、食は進化してきた。今は科学的に分析できるから、食べなくてもこの菌はダメとかわかってきたけど、食はまだまだ壮大な実験の途上にあると思います」
◆パンケーキブームは、「ハイエンド」な食文化の反動でやってきた?
福田里香さんは、複雑な味と美しいデコレーションを持つ「ハイエンド」な食文化が、ゼロ年代に一度頂点を迎えたと分析。現在の、シンプルで素朴な「パンケーキ」ブームはその反動だと語ります。
福田里香さん「やはり『ピエール・エルメ』の出現は大きい。チョコレートで言えば、『ジャン=ポール・エヴァン』みたいな、ある意味進化の果てみたいなものがあるんだけど…」

コンフィズリー「パートゥ ドゥ フリュイ」(右)
トミヤマユキコさん「計算があり、構想があり、コンセプトがあり、といった、「情報の積み上げ」系を極めたお菓子ですよね。パンケーキは、そのあとにやってきた素朴系?」
福田里香さん「そうそう。極めたからといって、それを一生食べて生きていくか?っていうと、それにも飽きるんです。だって、お菓子だから。そうすると、極めたものの二番煎じ、三番煎じを食べるよりも、反対方向に振って、素朴系に向かうというのは理解できますよね」
トミヤマユキコさん「じゃあ、今の日本は素朴系との親和性が高い時期だから、パンケーキブームだと?」
福田里香さん「そう。だから、いつかまた対極に振れることは、当然ある」
福田里香さんは、シンプルで素朴な「パンケーキ」ブームもやがて終わり、家庭では再現できず、レストランやカフェでなければ食べられない、複雑で贅沢な味わいを求める時代が再び来るだろうと予測します。
トミヤマユキコさん「贅沢感は贅沢感で欲しいですよね。外じゃないと食べられないものを、お金をたくさん使って頂くという幸せもありますから」
福田里香さん「それね、『ハイエンドのスペック』を食べているんですよ」(会場どよめき)
トミヤマユキコさん「聞きましたみなさん?ここ、メモってくださいね。お菓子というより、『ハイエンドなスペック』を食べているのですよ、我々は」(会場笑)
福田里香さん「ハイエンドのスペックを持ったコンピューターは食べられないけど、お菓子なら食べられるじゃないですか。そういう快楽ですよ」
トミヤマユキコさん「どこのマリーアントワネットだ?『コンピューターが食べられないなら、お菓子を食べればいいじゃない』(会場笑)なるほどねー、パンケーキブームが来た理由が、わかった気がします」

と語る福田里香さん
(注:画像はイメージです)
◆パンケーキブームの終焉とその先へ
お二人のお話は、パンケーキブームの終焉とその先へと続きます。
福田里香さん「永遠に続くかのようなこのパンケーキブームは、必ず去ります。終わらなかったブームなんかないから」
トミヤマユキコさん「願わくは、うまいこと軟着陸して欲しいと思っているんですよ。ブームがいきなり終わると怖いなって」
福田里香さん「ナタデココみたいな?」
トミヤマユキコさん「そう!東南アジアの工場がいっぱい潰れる、みたいな。そうじゃなくて、大きなブームが去った後もパンケーキを食べる習慣がみんなの中に根付いて欲しいなと思ったときに、行列店に並ぶ以外の関わり方も提案したいなと思って」
福田里香さん「ただね、やっぱり、ブームの中で皆が何を食べているかと言ったら、そりゃもう情報を食べているんですよ」
トミヤマユキコさん「『情報を食べている』!!またキラーフレーズがでました。みなさんメモってくださいね!」(会場笑)
福田里香さん「そうなっちゃたら、おいしいか、まずいかはもう関係ないんです。だから、並んでいる人をみて、馬鹿とか思っちゃいけないんです。あれは、情報のために並んでいるのだから」
トミヤマユキコさん「そうそう」
福田里香さん「それは、その人にとって有益なんです。例えば、普通のドーナツを3,000円分買うのと、一時間並んでクリスピークリームドーナツを1,000円分買うのと、その人にとって、どちらに価値があるのか?ってことですよ。
それを、女子の多い営業先に持って行ったときに、どうなるか?普通のドーナツなら、『ありがとう、後で食べるね』、で終わるでしょ?でも、クリスピークリームなら、みんな喜んでくれるじゃない? 職場の話題にもなるじゃない?だから、そういう商売はありなんです」
トミヤマユキコさん「私は、パンケーキを『コミュニケーションフード』って呼んでいるんです。『家に帰るまでが遠足』みたいな感じで、パンケーキは、並んで、写メに撮って、SNS に投稿するまでが、パンケーキなんです。食べるだけじゃ、満足できない。まぁ、これもいずれ別の食べ物に取って代わられるかもしれないですけどね」
福田里香さん「それは確実に変わりますね」
トミヤマユキコさん「だからこそ、今を楽しもうと」
福田里香さん「逆にいうと、ブームでパンケーキ屋さんは増えたので、好きな人にとっては食べ時ですよ。だから、流行はありがたいなと思わなければ」
トミヤマユキコさん「流行のおかげで、全国の小さな製粉所でもパンケーキの粉を作りはじめたりしているんです。その中には、本当においしい粉もあるんですよ」
福田里香さん「ブームが去った後でも残る粉は、本当においしい粉でしょうね」
トミヤマユキコさん「今食べられる、美味しい白い粉。法に触れない白い粉です(笑)」
■福田里香さんが米国のパンケーキ店を、トミヤマユキコさんが日本のパンケーキ店を紹介
対談はこの後、第二部へと続き、福田里香さんがサンフランシスコ、L.A.、シアトルのパンケーキ店を、トミヤマユキコさんが「パンケーキ・ノート」出版以降に見つけた日本国内の気になるパンケーキ店をそれぞれ紹介されました。
第二部の内容については、会場に足を運んだ人たちだけの秘密(?)。でも、特別に少しだけご紹介しましょう。トミヤマユキコさんがおススメする新宿のビストロカフェ「レディース&ジェントルメン」です。トミヤマさん曰く、ここのスフレパンケーキは、「霞を食べている」気分になるほどふわふわだそうですよ。

ふわっふわだそうです
お2人のお話は、第三部へと続きます。(8月20日公開予定の Part II へ続く)