“パンケーキ先生”と呼ばれるほどパンケーキを愛してやまないトミヤマさんと、もはや執念ともいえるこだわりで漫画に出てくる食事“マンガ飯”を再現している梅本さん。そんな2人がコラボした夢のトークイベント、テーマは「マンガに登場するパンケーキあれこれ」。120分間にわたって、マンガとパンケーキに関するマニアックなトークが繰り広げられました。そのようすを、2回に分けてレポートします。(【後編】は、6月14日掲載予定)

◆まずは、リアル「マンガ食堂」を体験!
イベントは、青山のイベントスペース「FARO」で開催されました。5月にオープンしたばかりのオシャレなお店で、半地下にはルーフデッキが併設されており、食事とイベントを同時に楽しめるカフェです。
今回のイベントは、“マンガに登場するパンケーキ”つき。「美味しんぼ」(作・雁屋哲/画・花咲アキラ/小学館刊)に登場したパンケーキ2種類を梅本さんが妄想により(!)再現し、参加した皆さんにふるまわれました。これを楽しみに来た方も多かったのではないでしょうか。

リアル「マンガ食堂」を体験したところで、いよいよトークイベントの始まりです。
◆“マンガに登場するパンケーキ”ができるまで
トークイベントは、梅本さんが再現したパンケーキのレシピ解説からスタート。何度も何度も試作を繰り返し、オリジナルのレシピが完成するまでの過程を話してくださいました。
1種類目は、「美味しんぼ」2巻に登場する「ジャガイモのパンケーキ」。ジャガイモをすり下ろすシーンと、生地を混ぜて焼くという2シーンだけを頼りに再現されたパンケーキは、「今までに食べたことのない味」と、参加者の皆さんから大絶賛。作中のコマからは、バターや牛乳などが入っていることと、生地がゆるめであることしか分からず、海外のパンケーキレシピなども参考にしながら完成させたそうです。

2種類目は、99巻に登場する「リコッタチーズとリンゴのパンケーキ」。すりおろしリンゴと別立てのメレンゲを使ってふわふわに仕上げられたものなのだそう。リコッタチーズとリンゴ、両方を一度に楽しめる味わいが皆さんに好評でした。

レシピ解説が終わったところで、いよいよ“マンガとパンケーキ”の話題へ入ります。まずは、マンガに出てくるパンケーキ・ホットケーキの歴史から。
◆ホットケーキはかつて「ドラヤキ」と呼ばれていた
司会 今回のイベントを開催するにあたって色々調べているときに、「マンガに出てくるホットケーキで一番古いのは何だろう」という話が出て、「サザエさんじゃないか」ってなったんですよね。
「サザエさん」(長谷川町子)の連載開始は1946年。1947年前後に掲載された回に、サザエさんが「ドラヤキ」を焼いているシーンが出てきます。ただしこの「ドラヤキ」は、現在わたしたちが想像するような、あんこがはまさったものではありません。トミヤマさんによると、大正時代には既に「ドラヤキ」と呼ばれるホットケーキのようなものがあったそうです。
トミヤマさん このシーンが描かれた時代は「ドラヤキ」から「ホットケーキ」に呼称が変わる過渡期なんです。ここでは「ドラヤキ」って呼ばれているんですけど、このあと「ホットケーキ」に変わるんですよ。
後の作品には、カツオが「一ぺんクッションくらいのホットケーキが食べてみたかったんだ」と言うシーンがあり、「ホットケーキ」という呼称が定着していったことが伺えます。ちなみに、マスオさんの特技は“バク転しながらホットケーキを焼く”だとか。
「ホットケーキ」と「パンケーキ」については、家庭用の粉が初めから「ホットケーキミックス」として売り出された一方で、帝国ホテルなどでは海外から入ってきた「パンケーキ」という名前で提供してきたとのこと。そこから、家庭では「ホットケーキ」、外食では「パンケーキ」という呼称が定着していったのではないかとトミヤマさんは考えているそうです。
一方「ドラえもん」(藤子・F・不二雄)では、しずかちゃんの発言に注目。大長編「のび太の大魔境」(「月間コロコロコミック」1981年9月号~1982年2月号に掲載/小学館刊)では「ホットケーキ」と言っていたしずかちゃんですが、ちょうど1年後の「のび太の海底鬼岩城」(同 1982年8月号~1983年2月号に掲載)では「パンケーキ」と発言しているとのことです。
梅本さん 「大魔境」に、“植物改造エキス”を使って好きな食べ物を食べるっていうシーンがあるんですけど、ここでは「ホットケーキ」って言ってるんですよ。
トミヤマさん そして「海底鬼岩城」でしずかちゃんが食べた「パンケーキ」は、プランクトンから出来てたっていうね!
梅本さん “かわうそのパンケーキ”を思い出しました(笑)。
“かわうそのパンケーキ”…!? この謎の食べ物については、イベントの最後に明かされます。そして話題は、2人の持ち寄ったマンガに登場するパンケーキへ。
◆パンケーキは“幸福の象徴”?
まずトミヤマさんは、「姉の結婚」(西炯子/小学館刊)から、つれない美人主人公が、「パンケーキを食べに行こう」と男性に誘われると傾いてしまうというシーンを紹介。しかし、現在発行されている5巻までで「パンケーキ」そのものが登場するシーンはなく、5巻の作者近影で、何段にも積まれた巨大パンケーキを前に、猫に囲まれて嬉しそうな西先生が描かれているのを発見したそうです。
トミヤマさん きっと西先生にとってパンケーキは幸福の象徴で、大好きな食べ物だと思うので、うまくいかない男とは食べに行かないと思います。本命が現れたら“幸せのパンケーキ”を食べるシーンが出てくるんじゃないかな。
司会 (西先生が)描くとしたら、どんなパンケーキだと思いますか?
トミヤマさん 家焼きじゃないですかね?結構地味な、ごく普通のやつを食べるのかなって思ってます。恋人と2人で焼くとか……。
司会 やらしい(笑)。
梅本さん 日曜の朝に2人で、とかね。
トミヤマさん 具体的には、ロイヤルホストのパンケーキに近いものじゃないかと私は踏んでるんですけど。
梅本さん あの、いい感じに薄くて重なってる的な?
トミヤマさん そうそう。作品の中で主人公が男とパンケーキを食べ始めたら、その男は要注意ですね。運命の男である可能性がありますよ!

◆“マンガみたいなホットケーキ”の再現は永遠の命題
続いて梅本さんが紹介した「flat」(青桐ナツ/マッグガーデン刊)は、著書「マンガ食堂」にも登場します。お菓子作りが趣味のマイペースな高校生・平介が、幼い従兄弟あっくんのために焼いたのが、ふんわり厚い「パッケージみたいなホットケーキ」。
梅本さん ホットケーキの箱の写真って、最初のパッケージ詐欺だと思うんです(笑)。あんなのドーピングしないと無理ですよね!
この「パッケージみたいなホットケーキ」の焼き方について、「マンガ食堂」でチャレンジされた際のエピソードも交えて、会場は大盛り上がり。ポイントは、マヨネーズを入れる、混ぜすぎない、打点を高く、の3点だそうですよ。
梅本さん: おいしそうなホットケーキを作るってことは、イコール、漫画みたいなホットケーキを作るってことだと。もう“永遠の命題”ですよね。
それにしても、梅本さんが再現したホットケーキの、なんとおいしそうなことか…!

(出典:「マンガ食堂」梅本ゆうこ/リトルモア)
◆“マンガに出てくるホットケーキが気になる”と言っても…
トミヤマさんが「いま一番気になる」という、「よつばと!」(あずまきよひと/アスキー・メディアワークス刊)10巻に収録されている「ホットケーキ」という回。主人公のよつばが周囲の助けを借りながらホットケーキ作りに挑戦する、というストーリーなのですが、
トミヤマさん 私が注目しているのはストーリーではございませんで。一体何のホットケーキミックスを使っているかっていうのを、調べたかったんです!
トミヤマさんは、作中に描かれているホットケーキミックスの箱に注目。デザインなどから、「森永ホットケーキミックス」、「ホテルニューオータニ ホットケーキミックス バニラタイプ」、ル パティシエ タカギの「ケーキのようなホットケーキミックス」を特定したそうです。
トミヤマさん 森永のは間違いないだろうと。でね、この一番下にある黒い箱。ここに描かれてる黒い丸を見て、私はピンと来たわけですよ。(箱を取り出して)ル パティシエ タカギの「ケーキのようなホットケーキミックス」、コレだろうと。すごいでしょ。

梅本さん 確かに、スーパーで買えるのってこの3つが多いですもんね。
トミヤマさん そう。ここまでは分かったんですけど、箱が全部で4つあるじゃないですか。あの真ん中のやつだけが分からなくて。あとの3つに元ネタがあるのに、これだけ架空の商品だとは考えにくいんですよ。

(出典:「よつばと!」10巻 (c)よつばスタジオ/(c)アスキー・メディアワークス)
この、謎だらけの“4つめのホットケーキミックス”、分かった人はぜひ教えてほしい!とのことです。
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【後編】は、6月14日掲載予定です。
注:本文中の「よつばと!」のコマは、よつばスタジオさま、アスキー・メディアワークスさまより許可を得て掲載しています。