とんかつ とんきの串かつ
とんかつ とんきの串かつはネギがおいしい

東京・目黒にある「とんかつ とんき」。開店前から列ができる名店だが、もし訪れることがあったら勧めたいのが「串のない串かつ」だ。

入りやすい雰囲気の名店

とんかつ とんきの外観
目黒駅から歩いてすぐ

とんきは目黒駅西口を出て数分歩くとつく。近くにある「とんかつ かつ壱」「とんかつ 大宝」などとともに目黒のとんかつ御三家と呼んだりもするそうな。

のれんをくぐって入るとさっそく、かつを揚げる新鮮な油の匂いがする。カウンター席のみだが、とても広々としていて、会社員らしき男性がひとりかつをつまみにビールを楽しんでいるかと思えば、家族連れが仲良く夕ご飯を食べている。格式ばらない入りやすい雰囲気だが、お店の人の動きはとてもきびきびして気持ちがよい。

カウンターに座ってメニューを眺め、注文したのが「串かつ定食」(1,400円、税込、以下同じ)。オーソドックスにロースかつ定食やひれかつ定食(ともに1,900円)でもよかったのだが、一味違ったものを頼んでみたくなったのだ。

熱いお茶おいしい

とんきのお茶のイメージ
冷房の利いた店内で熱いお茶、おいしい

すぐ出てきたのは熱いお茶。外は猛暑だが店内はゆるめに冷房が利いているのもあって、とてもほっとする。特別な味がするというのではないが、香りが強く、鮮やかな緑も目に楽しい。とんかつ屋さんでまずお茶に感心するのは、考えてみると不思議だ。

串のない串かつ

串かつ定食のイメージ
串かつ定食。串はない

お茶を飲みながら少し待つと、続いて出てきたのが色鮮やかな千切りキャベツとトマト、パセリを添えたボリュームのあるかつ。串かつという名前だが、串は揚げるときだけ挿して、皿に盛りつけるときには外してしまう。

串かつの拡大イメージ
串は揚げるときだけ挿し、皿に盛りつける前に外す

なぜそんな手間のかかることをと、あらためて観察して納得。カットした長ネギを豚肉とひとつにして揚げているのだ。

串かつの拡大イメージ
ひと手間のかかった料理だ

食べやすい大きさに切ってあるかつをひときれ箸でとって、歯を立ててみる。サクサクした厚めの衣をかじったとたん、中に閉じ込められていた長ネギの風味が口の中に広がる。一緒にほおばった肉の味は、それを引き立てるようだ。この串かつの主役は、あるいは肉ではなくネギかもしれないと感じる。試しにネギだけを外して味わうと、甘い。衣につつんでじっくり揚げたネギはこんなに甘いのかと驚く。

串かつのイメージ
ネギと肉をひとつの衣に入れてじょうずに揚げてある

ただ、もうひときれかじると、今度は逆にジューシーな肉のうまみをネギが引き立てるのが分かった。やっぱり肉が主役かなと、意見がまたあっさり変わる。

ネギと肉の組み合わせだけで十分おいしいが、ソースやカラシをつけて食べるとまた違った料理になったように舌を驚かせてくれる。

そのまま、かつだけ一息に平らげそうになったが、途中で我に返りどうにかこらえる。強いて千切りキャベツに注意を向けると、緑と白のいりまじったいろどりが美しい。ヒスイとかエメラルドとか、宝石の色を連想する。口に運ぶと、しゃきしゃきして新鮮。ひょっとしてと思って、かつと一緒に口に味わうと、歯ざわり、舌ざわりが変わって楽しい。

千切りキャベツのおいしさに感じ入ってもりもり食べていくと、「キャベツをもう少しいかがですか」とお店の人のがすすめてくれる。とっさに「あ、お願いします」と語尾にハートをついたような返事をして、追加を盛ってもらう。さらにキャベツを味わううち、だんだん口の中がさっぱりリセットされたようになって、またかつがおいしくなる。

お新香は爽やか、とん汁はこってり

お新香のイメージ
お新香はさわやかな味つけ

定食についてくるお新香も試す。爽(さわ)やかな味付けで、かつとは好対照。色合いもきれいで、歯ごたえもよく、白いご飯がすすむ。

一方、とん汁は分厚いお肉がゴロゴロ入っていて、こってりめ。塩味もやや強くしてあり、たっぷり七味を入れても辛さや香りに負けない個性がある。

とん汁のイメージ
とん汁はこってり、七味を容赦なく振っても負けない

それぞれ順ぐりに箸を運ぶことで、いつまでもいつまでも飽きず楽しめそうだなと、うっとりしているうちに、気づくとすべてがお腹のなかに収まってしまった。

「どうぞ」とお店の人がおりよく温かいおしぼりを出してくれる。何から何までゆきとどいているなと思いつつ、手を拭いてカウンターを立つ。とても満ち足りて、しかしお店を出るのはまだちょっとなごりおしいようなひと時だった。