でも、実際のところ、「ブルーボトルコーヒー」 って、どんなコーヒーショップなんでしょうか? そもそも「ブルーボトルコーヒー」のコーヒーはおいしいのでしょうか? これって、気になりませんか?
気になったら、確かめてみるのがえん食べ編集部。さっそく、サンフランシスコのフェリービルディング店にでかけ、ラテを飲みアフォガトを食べてきました。
■フェリービルディングにやってきました
「フェリービルディング」は、サンフランシスコの海沿いにある、横に長い構造を持つ建築物。初めて訪問する場合、時計台が目印となります。1階は多くの店が軒を連ねる、観光客と地元の人たちで賑わう場所。「ブルーボトルコーヒー」は、その1階にあります。
この左端に「ブルーボトルコーヒー」はあります
入口を入り、左方向に歩みを進めると、そこには長い行列が。それがブルーボトルコーヒーの店舗に続く列でした。
■行列に並び、店内に入ってみました
店舗に足を踏み入れてすぐにわかるのは、店員さんたちがフレンドリーなこと。ただ注文を受けてコーヒーを出すだけでなく、お客さんとのちょっとした会話を楽しんでいます。中には顔見知りもいるようで、話が弾むことも。
米国のコーヒーショップといえば、店員さんにやる気がまったくなく、注文を上の空で聞いたあと、よそみをしながら「いず ざ ぞー(Is that all?:それで全部ですか?)」と機械的に繰り返す人ばかり…という印象があるのですが、「ブルーボトルコーヒー」の店員さん達は違います。一人ひとり得意分野があり、それを活かして働いている感じが伝わってきます。
作り置きは一切しないそうです
自分の順番になり、ラテとアフォガトを注文しました。店員さんは豆を挽くところから始め、丁寧に目の前で淹れてくれます。ちょっと時間はかかりますが、コーヒーを淹れながらいろいろ話しかけてきてくれるので、退屈はしません。
コーヒーを淹れ終わったあと、店員さんは Clover のミルクでラテアートを描き、渡してくれました。
■飲んで、食べてみました
ラテは、米国のコーヒーショップとしてはとても完成度の高いものでした。ミルクフォームも肌理が細かく、舌触りも上品です。味はかなり癖がある方。酸味が強めです。これは好き嫌いが分かれそうなところ。でも、丁寧に淹れてあることはよく分かる味です。筆者は深煎りの苦めのコーヒーが好きなのですが、淹れたてでしかも本格的なためか、苦手な味にもかかわらず楽しめてしまいました。
ラテを飲んでいる間に、アフォガトも完成しました。こちらも完成度高めです。アイスクリームは濃厚。苦いエスプレッソに合わせるためか、若干甘めのものがセレクトされています。でも、単品で食べてもおいしいもの。アイスクリームにかけられたエスプレッソは、良い豆を正しく扱って淹れた、本物の味でした。
でも、やはり癖は強め。アイスクリームはチーズフレイバーが強く、エスプレッソは酸味強めです。そう、「ブルーボトルコーヒー」はデザートでも攻めてます。
アイスクリーム単体でもおいしいものでした
ファストフードが目指している味が、「誰にでも受け入れてもらえるけど、やみつきになる人はいない」ものだとしたら、「ブルーボトルコーヒー」のコーヒーやデザートはその対極を目指していると言えるでしょう。だめな人はいるかもしれないけど、一度好きになったら、他では満足できない人を作る味です。でも、「ブルーボトルコーヒー」はチェーン店。もっと一般向けの味に振った方が、様々な人に受けいれられ易く、ビジネスとしては安全なはず。なのにあえてこの味。ここには、強いこだわりを感じました。
■このこだわりはどこから?… Andrew Curry さんに聞いてみた
このこだわりはどこからくるのでしょか? フェリービルディング店で Assistant Manager(副店長)を務める Andrew Curry さんに話をうかがってみました。
えん食べ:「『ブルーボトルコーヒー』のコーヒーには、ファストフードのコーヒーとは違い、強いこだわりを感じます。なぜこうなったのでしょうか?」
Andrew Curry さん:「特別なことをしているわけではありません。ただ、高品質なコーヒー豆を探し、それを店内で丁寧に一杯一杯まじめに抽出する。それだけなのです。でも、そこがユニークなのかもしれませんね」
えん食べ:「『ブルーボトルコーヒー』は、店舗ごとにこだわりがあると聞きました。 このフェリービルディング店ならではのこだわりを教えてください」
Andrew Curry さん:「2つあります。1つはカウンターが2つあることです。あちらのメインのカウンターでは、ブレンド豆を使っています。ここは、一般のお客さん向けですね。
でも、もう1つのカウンター、我々は“シークレットカウンター”と呼んでいますが、ここではブレンドせず、1種類の豆だけを使ってコーヒーを淹れています。どの豆を使うかはその日によって違います。こちらは、リピーターのお客さん向けです。
筆者はこのカウンターで提供されたラテを飲みました
癖が強いと感じた理由がわかりました!
もう1つは、ワッフルを提供していることです。これは、フェリービルディング店だけの特別なメニューです。ワッフルも、店内で焼いているんですよ」
焼きたてを提供!
えん食べ:「15年前のアメリカでは、コーヒーは無料というのが当たり前でした。それを変えたのが、『スターバックス』や『ピーツ・コーヒー&ティー』。これらのコーヒーショップによって、コーヒーはファッションの1部となりました。スターバックスで人々が支払うコーヒーの代金には、そのファッション性への対価も含まれています。
『ブルーボトルコーヒー』は、さらにその一歩先を歩んでいるように見えます。ここでは、コーヒーの値段には“おもてなし”への対価が含まれていますよね?
このやり方は、日本では通用しそうですが、合理的な考えを持つ米国人にも通用したその理由が、私にはよくわかりません。米国の国土は広く、様々な考え方を持った人がいます。その米国で、『ブルーボトルコーヒー』が人気を獲得した理由はなんだと思いますか?」
Andrew Curry さん:「コーヒーの品質の高さに尽きるでしょう。それをリピーターが口コミで広めてくれました。
『ブルーボトルコーヒー』に足を運んでコーヒーを飲んだお客さんの多くが、リピーターになってくれたのです。リピーターが、家族や友達にそのよさを口コミで広めた。そうやって、徐々にお客さんの数が増えていきました。米国人だって、本当は、おいしいコーヒーを飲みたかったし、おもてなしして欲しかったんですよ」
えん食べ:「Andrew Curry さん、あなたはなぜここで働いているのですか? 『スターバックス』や『ピーツ・コーヒー&ティー』ではなく、『ブルーボトルコーヒー』を職場に選択した理由を教えてください」
Andrew Curry さん:「コーヒーの品質が高いからです。私はそれを誇りに感じています。コーヒーだけでなく、カップや店舗のデザインも優れています。働いている人もコーヒー好きで勤勉で、とてもアットホームなんです」
えん食べ:「日本では『ブルーボトルコーヒー』の上陸が話題になっています。日本からのお客さんは、すでにこの店舗を訪れていますか?」
Andrew Curry さん:「もちろんです。すでに何人もいらしてます。そして私自身も、日本店のオープンを心待ちにしています。
≪日本語で:実は私は、少し日本語がしゃべれます。≫
いつか、日本支店を訪問したいと思っていますよ」
えん食べ:「今年の秋、日本でお会いできたらよいですね」
Andrew Curry さん:「そう願ってます」
■“まじめ”“丁寧”“高品質”
お話を伺いながら、“まじめ”“丁寧”“高品質”といった言葉が頻出するのに気付きました。
米国と言えば、特にサンフランシスコ/シリコンバレーと言えば、“効率化”“スピード”“低コスト”を追求してきた場所のはず。この場所では、少々雑でも、安ければ良いという人たちが多数派を占めていたはずです。
なのに、ひたすら高品質を追求する『ブルーボトルコーヒー』が、顧客に受け入れられ、しかもかつてはハイテク企業に目を向けてきた投資家が、ハイテクとは最も遠いところにある『ブルーボトルコーヒー』に対して投資を始めている。インタビューをしながら、米国がこれまでとは違う方向に向かって進み始めているような、そんな感触を得ました。
「ブルーボトルコーヒー」は今年の10月頃、日本にも上陸します。成功するかどうか、私にはわかりませんが、“まじめ”“丁寧”“高品質”といったキーワードは、実は日本でこそもっとも受け入れられやすいものという気はしています。
さて、サンフランシスコでは「ブルーボトルコーヒー」の他、「Philz Coffee」「Ritual Coffee Roasters」「Four Barrel Coffee」の人気が高く、これらは「サンフランシスコの4大コーヒー」と呼ばれています。中でも、「Philz Coffee」は Facebook CEO マーク・ザッカーバーグ氏のお気に入り。ザッカーバーグ氏は、ここのコーヒーが飲みたくて、Facebook の社内カフェに「Philz Coffee」を導入したほどなのだとか。
これら4大コーヒーの残りの3つも、日本上陸を果たして欲しいものです。と同時に、日本の昔ながらのコーヒー屋さんも、がんばって欲しいところです。