くら寿司の「チョコぶり」
くら寿司の「チョコぶり」。一見すると鮮度のよい普通のブリだが

回転寿司チェーン「無添くら寿司」で、チョコレートを食べて育ったブリ「チョコぶり」を食べてきた。バレンタイン時期にふさわしい1貫だ。

チョコぶりは愛媛県農林水産研究所水産研究センターと宇和島プロジェクトが開発した銘柄で、魚のアラにチョコレートを混ぜた餌を養殖のブリに与えて育て、付加価値を高めたもの。2018年の発表以来、今回が世界初の一般販売だ。くら寿司では2月14日までの期間限定での取り扱いとのこと。


チョコで育てたブリとは面白い。折角バレンタインデーも近いが、こんなかたちでもなければ参加する機会もないし、ひょっとしたらこの季節にいつも感じる一抹(いちまつ)のさびしさを埋めてくれるかもしれない。がぜん試してみる気持ちになった。

ランチ時間帯のお店に1人で入り、さっそくタッチパネルで注文する。1貫1皿108円(税込、以下同じ)。あまり待たずレールに乗ってみずみずしい握りが登場。立派なブリだ。

ネタは大きく、ぶあつく、シャリが小さく見えるほど。脂ものっている。ショウユを直に垂らしてほおばると、やわらかくとろけるような舌ざわり。鮮度はとてもよく、あまりクセはなく、しかし青魚の風味はかすかにある。いかにも寿司らしい寿司。

くら寿司の「チョコぶり」
ショーユを垂らして

ただ、しかし、けれども、チョコレートの味はしないのだ。よくよく確かめればカカオの香りや、ほのかな甘みがあるかもしれない、と考え、じっくり目を閉じて咀嚼(そしゃく)してみたが、やはりしない。

くら寿司の「チョコぶり」
味わってみると…やっぱり普通においしいブリ

そういえば、くら寿司の紹介にも別にチョコレート味とは書いていなかった。おいしく、鮮度のよい、普通のブリ。それがチョコぶりの正体。純粋ににぎりとして満足はした。満足はしたのだが。

もうちょっとだけ何かが欲しくなり、またタッチパネルに指をのばし、追加の注文を入れる。続いて運ばれてきたのは「チョコっといなり」。2個108円で、チョコレート色のおあげの包みにクリームとフルーツがのった、デザート風だが、箸で割くとちゃんとシャリが入った本物のいなりだ。

くら寿司の「チョコっといなり」
「チョコっといなり」。デザート感あふれるいなり寿司だ

一瞬面食らうが、口に運ぶといなりの甘さとほのかな酸味に、クリームのやわらかさとベリー系の果実の香りがあわさり、どこかロマンチックな風情だ。存在しないはずの恋人が目の前でやさしくほほえんでいる気持ちにさえなってくる。

くら寿司の「チョコっといなり」
ちゃんとシャリが入っている

かわいらしい名前に反してストイックなおいしさのチョコぶりに、チョコっといなりのかなり力強いスイーツ感が合わさると、少し早いが良いバレンタインデーだったと思えてくる。ささやかな幸せをかみしめてから、そっと皿を読み取り機に入れ、静かに会計を済ませて店を出たのだった。